出版業界は近年、急速な構造変化に直面しています。紙媒体の売上減少、書店数の減少、そしてSNSや個人メディアの台頭によって、出版社が情報発信力を維持・強化していくには、従来のチャネルに頼るだけでは難しい時代となりました。そうした中、出版社自身が持つオウンドメディア(自社ホームページ)をいかに有効活用できるかが、今後の競争力の鍵を握っています。
今回ご紹介するのは、ある出版社におけるホームページのリニューアルとSEO強化によって、日次アクティブユーザー(DAU)が約8倍に増加したプロジェクトの事例です。本取り組みは、単なるリニューアルにとどまらず、「出版社自らが読者との接点を築き、影響力を再構築する」ための戦略的なWeb活用施策として位置付けられました。
背景:書店だけに依存しない情報発信力の再構築
このプロジェクトの背景には、紙の出版物がかつてほど読者の目に触れにくくなっているという業界全体の課題がありました。新刊案内の場として機能していた書店の減少や、SNSによる情報拡散が主流になる中、出版社が独自のメディア力を持ち、オンライン上で読者と直接つながる必要性が高まっていたのです。
そこでクライアント企業は、「自社ホームページを情報拠点として再設計し、継続的に訪問される仕組みを作る」ことを目的に、ホームページの抜本的な改修を決断しました。
フェーズ1:UI/UX設計とSEO基盤の再構築
最初のステップでは、サイト全体の情報設計と導線を見直し、読者が必要な情報へストレスなくたどり着ける構成に刷新しました。具体的には、新刊情報、著者インタビュー、ジャンル別コンテンツなどを整理し、回遊性の高いページ構成に改善。さらに、SEO対策として各ページのタイトル、ディスクリプション、構造化データなども最適化し、検索エンジンからの流入を意識した設計を施しました。
この段階で、以前の約2倍のDAUを達成し、検索経由の流入が着実に増え始めました。
フェーズ2:ヒートマップを活用したUX改善とコンテンツ最適化
続いて導入したのが、ヒートマップツールを活用したユーザー行動の可視化です。どこでユーザーが離脱しているのか、どの要素に注目が集まっているのかを分析し、トップページや特集コンテンツのレイアウト改善、CTAボタンの位置調整を行いました。
これにより、ページごとの平均滞在時間が延び、離脱率が改善。また、コンテンツの配置やデザインを最適化することで、DAUはさらに倍増し、開始時と比較して約4倍の水準に到達しました。
フェーズ3:検索キーワードの強化と継続的なコンテンツ戦略
最後に取り組んだのが、検索ニーズに応じたキーワード強化と記事コンテンツの定期更新です。Googleトレンドや検索ボリュームツールを活用し、話題性の高いテーマに合わせたコンテンツを毎週発信。特に著者インタビュー、書籍に関連する社会課題の解説、読者向けコラムなど、読み物としての価値を重視した記事制作を行いました。
このフェーズで、検索経由の流入は飛躍的に増加し、最初の状態と比べて約8倍のDAUを安定的に達成するようになりました。コンテンツがSNSで自然に拡散される事例も増え、Webサイト自体が出版社の「情報発信メディア」として独自の影響力を持つようになっています。
成果と今後の展望
今回の取り組みにより、出版社が自社Webサイトを通じて直接読者とつながり、書店以外での情報接点を確保することが可能となりました。Webサイトはもはや「単なる製品紹介の場」ではなく、出版社のブランド価値や社会的立場を伝えるための中核的な媒体に変化したと言えます。
今後は、メールマガジンの配信や会員制コンテンツの導入など、より高度なマーケティング施策を展開することで、購読促進・ファン醸成・コミュニティ形成など、出版社としての新しい役割をWeb上で担っていくことが期待されています。